SO審査員に求められる特質:「望ましい個人の行動」(ISO/IEC 17021 7項)を高めていくには
代表取締役社長
髙﨑 誠
JICQAでは、登録組織様に「良い審査であった」、「受審してよかった」と思っていただけるよう、審査員の力量向上を図るために、年次・月次研修会、審 査実行のモニタリング、審査報告書のレビュー、力量向上試験等を計画的に実施しています。これらを通して、審査員は日夜、研鑽を積んでおります。
一方、2011年に改訂された「マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項」(ISO/IEC 17021)では、認証機関は審査員の力量の判断基準と評価プロセスを明確にして、審査員及びスタッフの力量の付与に責任を持つことが定められました。そ の中には審査の原則、実務及び技術、依頼者の事業分野等に関する「知識」に加えて、面接の技能、審査のマネジメント技能等の「技能」に関する基準が定めら れています。
また、審査は一個の人間が行うため、その審査の出来栄えは「個人の行動様式」によるところが大きく、ISO/IEC 17021では審査員の「望ましい個人の行動」として定めています。この中には、倫理的である、協力的である、観察力がある、知覚が鋭い、適応性がある、 決断力がある等の個人の特質を定め、長所を活用し、短所の影響を最小限に留めることを求めています。
すなわち、「知識と技能」及び「望ましい個人の行動」という2つの側面で理想とする審査員像を描いております。
「知識と技能」については冒頭で申し上げました種々の教育によりその付与に努めており、若干の個人差はありますが一定の成果を収めております。一方、 「望ましい個人の行動」については、審査実行のモニタリング、日常の個人の行動等の観察から短所の影響を最小限に留めるべく、指導をしております。しか し、個人の行動を指導するということにはかなりの難しさを感じているところです。
少し話が転じますが、釈迦の教えに基づいて「良い審査」の成立要因を整理してみます。釈迦は「因縁生起(いんねんしょうき)」という教えに基づいて、あ る物事が生起するには原因(=因)と結果を生じる作用(=縁)によって「果」が生じるとしています。すなわち、種を蒔いて(=因)も、適度な水分、適度な 温度(=縁)が調(ととの)わない限り、発芽(=果)を得ることはできません。
このことを、「良い審査」を成立させる要因として整理しますと、「求められる知識と技能」(=因:直接原因)と「望ましい個人の行動」(=縁:間接条件)が調って、初めて「良い審査」(=果)を得ることができるということになります。
もちろん、「良い審査」を成立させるための最も重要な要因は登録組織様の絶大なご協力とご支援であることは言うまでもありません。
「望ましい個人の行動」に話を戻しますが、上記したような個性又は個人的な特質を望ましい状態に高めていくには、各人が目標を定めて一歩一歩、目標に近づいていくことが最も有効な手段であると思われます。目標に向かって近づいていくことをサンスクリット語で「ウパーヤ(方便)」と言い、釈迦は最も尊い行いと言っております。また、釈迦は、「犀の角のようにただ独り歩め」とも表現しており、個人的な特質を高めていく訓練 は、人から教えられるものというよりも、自主的な取り組みが必須と考えております。
すなわち、第3者によるモニタリング結果、受審組織からのアンケート、 ベテラン審査員のパフォーマンス等を通して、常に、自らの行動様式を洗練されたものに磨き上げる訓練が最も大切であると考えています。